第1話〜第一回保健所遠征〜
自分でお菓子を販売すると決めた次の日、僕は市役所にいた。
食べ物を作って販売するには、保健所の許可がいるという話を聞いたことがあるからね。
とはいえ、「許可がいる」以上のことは何も知らなかった。
こういう場合は自分で調べるという選択肢もあるのだけれど、今回は直接聞きに行ったんだ。
許可をもらうのが目的なのだから、あれこれ考えないで本人に合格ラインを尋ねた方が早いと思ったのでね。
調べたところによると、保健所は市役所の中にたくさんある部署の一つらしい。
聞きたいことは3つ。
・営業するのに必要な許可はいくつある?
・その許可が降りるために必要な条件は?
・費用はいくらかかる?
装備は『真っ白なコピー用紙(メモ帳代わり)』と『サインペン(水性)』。
あとは、『冷静な頭』と『素直な心』。
最初はこれだけあれば心配はいらない。
相手が保健所とはいえ、実際に接するのは同じ人間なのだから。
分からないことは分からないと、正直に言えばいい。
というわけで、僕は颯爽と保健所の窓口へと向かったわけさ。
対応してくれたのは、柔らかい雰囲気の優しそうな男性職員。
なにも知らない僕にも丁寧にいろいろ教えてくれたから、要点だけざっくりまとめてキミにも教えてあげよう。
ただし、僕なりの解釈だということは分かっておいておくれ。
もしどこかが間違っていたら、今後僕は保健所から注意を受けるだろうから、その時また訂正を入れることとするよ。
まず、飲食業と一口に言っても、実は34もの業種に分類されるらしい。
レストランは『飲食業営業』、お肉屋さんは『食肉販売業』といった具合にね。
僕がしようとしているのは『お菓子だけを作って売ること』だから、『菓子製造業』となるわけだ。
そして保健所に出さないといけない許可申請書は一枚。
その一枚で、『人』と『場所』に許可を出す、というイメージでいいかな。
実際に渡されたのがこれ。
人に関しては、『食品衛生責任者』という資格を持っている必要がある。
『調理師免許』や『製菓衛生師免許』を持っていればわざわざ取らなくてもいいらしいのだけど、なにも持っていないなら取得しないといけない。
それでも、数千円を払って講座を受講すれば取れるんだとさ。
場所に関しては、なにやら小難しいことが書いてある書類を渡された。
どの業種にも共通する基準がこれらしい。
よくよく話を聞いてみると、みんなだいたい『水道』と『区画』の2点で引っかかりやすいらしい。
他は比較的改善しやすいみたいなのだけど、この2点は難しいと。
逆に言えば、この2点さえクリアできれば保健所の許可が降りる日は近い。
まず『水道』に関して。
合計で3つは蛇口が必要なんだ。
それぞれ『調理器具とかを洗ったりする場所』『作業用と別で手を洗う場所』『トイレ用』だ。
『トイレ用』は便座と一体型になっているものではなく、独立している必要がある。
そしてどの水道も、きちんと排水管に流れていく形でないといけない。
極端な話、条件さえクリアしていれば、賃貸のアパートやマンションの一室でも大丈夫なわけだ。
例えば、『調理器具とかを洗ったりする場所』はキッチン、『作業用と別で手を洗う場所』は独立洗面台、『トイレ用』はトイレ内の独立した手洗い場、といった具合にね。
次に『区画』に関して。
作業場は、居住スペースやその他関係のない場所と遮断されなければならない。
例えば自宅を作業場とする場合、キッチンの空間は玄関や寝室とは繋がってちゃいけないんだ。
扉とかで遮断して、作業場だけの空間を作れるようにする必要がある。
そしてこうなると、作業用と居住用のキッチンが同じというのも許されない。
作業専用のキッチンを確保しないといけないんだ。
特に気をつけないといけないのはこの2点かな。
賃貸でやりたいなら家主さんに、商売用で使ってもいいか聞く必要もある。
いい物件があったら、契約する前に保健所に図面を持って行って確認した方がいいかな。
一発合格じゃなきゃいけないこともないのだから、改善点を素直に聞き入れて、許可が降りるまで何回もトライするくらいの気持ちでいる方が良さそうだ。
今回、保健所で教えてもらったことはこれくらいかな。
そのあと、建築指導課っていうところに行って話を聞いたのだけど、そのことはまた今度話すとしよう。
じゃあ今回はこの辺で。
お粗末様。