第2話〜商売しても、いい場所ダメな場所〜
前回は保健所に行った話を書いたね。
実はその時にこんなことを言われたんだ。
「物件が見つかったら、商業利用していい地域かどうか、建築指導課で確認してくださいね。」
そんなルールまであるだなんて知らなかったから、正直驚いたよ。
餅は餅屋。善は急げ。
保健所を後にした僕は、その足で建築指導課に向かったんだ。
そこで聞いた話をざっくりまとめて話すとしよう。
街では『用途地域』というものが決められているそうだ。
住居用、商業用、工業用、といった具合に、用途ごとにエリア分けされている。
もちろん段階分けされていて、全部で13種類あるんだ。
『第一種低層住居専用地域』から始まって、グラデーションのようにだんだんと商売が認められやすくなっていく。
『工業専用地域』ともなると、むしろ住宅が建設できないほどらしい。
じゃあ『第一種低層住居専用地域』だと商売はできないのか、というとそうではなく。
商用利用に一番厳しいというだけで、条件さえクリアすれば認められるんだ。
『第一種低層住居専用地域』で店舗を持つための条件は4つ。
・居住を兼ねた建物であること
・店舗面積が50㎡以下であること
・店舗スペースが居住スペースの半分以下であること
・モーターなどで動く設備の出力の合計が0.75kW以下であること
この条件をクリアできているなら、ほとんどの地域で店舗を持つことはできるんじゃないかな。
もちろん商業寄りの地域になるほど、ハードルは下がっていくから安心していい。
自分が狙っている物件がどの用途地域なのかは、役所のホームページにも載ってるはずだから、ネットを使って調べてみるといいよ。
聞きにいって思ったけれど、やっぱりこういうルールはやたらと難しい文章で書いてあるんだよね…。
噛み砕いて説明してくれる人と話した方が早いと思うな。
つまり、役所の建築指導課を訪ねてみるのが手っ取り早い。
堅苦しい雰囲気に感じるかもしれないけど、きっと優しく教えてくれるよ。
僕は行ってよかったと思ってる。
んじゃま、今回はそんな感じで。
お粗末様でした。
第1話〜第一回保健所遠征〜
自分でお菓子を販売すると決めた次の日、僕は市役所にいた。
食べ物を作って販売するには、保健所の許可がいるという話を聞いたことがあるからね。
とはいえ、「許可がいる」以上のことは何も知らなかった。
こういう場合は自分で調べるという選択肢もあるのだけれど、今回は直接聞きに行ったんだ。
許可をもらうのが目的なのだから、あれこれ考えないで本人に合格ラインを尋ねた方が早いと思ったのでね。
調べたところによると、保健所は市役所の中にたくさんある部署の一つらしい。
聞きたいことは3つ。
・営業するのに必要な許可はいくつある?
・その許可が降りるために必要な条件は?
・費用はいくらかかる?
装備は『真っ白なコピー用紙(メモ帳代わり)』と『サインペン(水性)』。
あとは、『冷静な頭』と『素直な心』。
最初はこれだけあれば心配はいらない。
相手が保健所とはいえ、実際に接するのは同じ人間なのだから。
分からないことは分からないと、正直に言えばいい。
というわけで、僕は颯爽と保健所の窓口へと向かったわけさ。
対応してくれたのは、柔らかい雰囲気の優しそうな男性職員。
なにも知らない僕にも丁寧にいろいろ教えてくれたから、要点だけざっくりまとめてキミにも教えてあげよう。
ただし、僕なりの解釈だということは分かっておいておくれ。
もしどこかが間違っていたら、今後僕は保健所から注意を受けるだろうから、その時また訂正を入れることとするよ。
まず、飲食業と一口に言っても、実は34もの業種に分類されるらしい。
レストランは『飲食業営業』、お肉屋さんは『食肉販売業』といった具合にね。
僕がしようとしているのは『お菓子だけを作って売ること』だから、『菓子製造業』となるわけだ。
そして保健所に出さないといけない許可申請書は一枚。
その一枚で、『人』と『場所』に許可を出す、というイメージでいいかな。
実際に渡されたのがこれ。
人に関しては、『食品衛生責任者』という資格を持っている必要がある。
『調理師免許』や『製菓衛生師免許』を持っていればわざわざ取らなくてもいいらしいのだけど、なにも持っていないなら取得しないといけない。
それでも、数千円を払って講座を受講すれば取れるんだとさ。
場所に関しては、なにやら小難しいことが書いてある書類を渡された。
どの業種にも共通する基準がこれらしい。
よくよく話を聞いてみると、みんなだいたい『水道』と『区画』の2点で引っかかりやすいらしい。
他は比較的改善しやすいみたいなのだけど、この2点は難しいと。
逆に言えば、この2点さえクリアできれば保健所の許可が降りる日は近い。
まず『水道』に関して。
合計で3つは蛇口が必要なんだ。
それぞれ『調理器具とかを洗ったりする場所』『作業用と別で手を洗う場所』『トイレ用』だ。
『トイレ用』は便座と一体型になっているものではなく、独立している必要がある。
そしてどの水道も、きちんと排水管に流れていく形でないといけない。
極端な話、条件さえクリアしていれば、賃貸のアパートやマンションの一室でも大丈夫なわけだ。
例えば、『調理器具とかを洗ったりする場所』はキッチン、『作業用と別で手を洗う場所』は独立洗面台、『トイレ用』はトイレ内の独立した手洗い場、といった具合にね。
次に『区画』に関して。
作業場は、居住スペースやその他関係のない場所と遮断されなければならない。
例えば自宅を作業場とする場合、キッチンの空間は玄関や寝室とは繋がってちゃいけないんだ。
扉とかで遮断して、作業場だけの空間を作れるようにする必要がある。
そしてこうなると、作業用と居住用のキッチンが同じというのも許されない。
作業専用のキッチンを確保しないといけないんだ。
特に気をつけないといけないのはこの2点かな。
賃貸でやりたいなら家主さんに、商売用で使ってもいいか聞く必要もある。
いい物件があったら、契約する前に保健所に図面を持って行って確認した方がいいかな。
一発合格じゃなきゃいけないこともないのだから、改善点を素直に聞き入れて、許可が降りるまで何回もトライするくらいの気持ちでいる方が良さそうだ。
今回、保健所で教えてもらったことはこれくらいかな。
そのあと、建築指導課っていうところに行って話を聞いたのだけど、そのことはまた今度話すとしよう。
じゃあ今回はこの辺で。
お粗末様。
第0話〜プロローグ〜
僕は、お菓子が好き。
シュークリームとか、ガトーショコラとか、ドーナツとか。
甘い物を食べてる時間はいつも幸せ。
クリームたっぷりな生菓子も、素朴でシンプルな焼き菓子も、甘い物はいつだって僕の心に幸せを生み出してくれる。
僕は、お菓子が好き。
中学生の頃からの夢だったパティシエになったはずなのに、気付いたら仕事内容が料理ばっかりになっていて、もういっそ料理の道に進もうかと思った時期もある。
仕事量と収入が釣り合わない飲食業に嫌気がさして、場所を選ばず働けるノマドワーカーに憧れ、ブログに手を出した時期もある。
自分で商売することを考え出してからは、どうやったらお金を稼げるのかということで頭がいっぱいだった。
思い付いたことは紙に書き出し、友人に話した。
いろんなビジネス書を読んで、どういう稼ぎ方があるのか勉強した。
どれくらいの収入があれば今の自分は生きていけるのか計算した。
どんな形をとれば、効率よくラクして利益をあげられるか考えた。
僕は、お菓子が好き。
ある日、「これならいけるかも」と思ったアイデアを父に話してみた。
返ってきた言葉は期待していたものと違った。
『それ面白いかもしれないけど、誰がお金払うの?』
そこでようやく気付いた。
僕は自分のことしか考えていなかったんだと。
自分が面白いと思うこと、ラクできることばかり考えていたと。
『どうやったら誰かを幸せにできるか考えてみたら?』
という言葉で父の話は締めくくられた。
そこからしばらくは、「誰かを幸せにする方法」で頭がいっぱいだった。
僕は、お菓子が好き。
ある日、本屋をウロウロしてる時にいきなり、僕の中に一つの考えが生まれた。
僕にとって『お菓子』とは、『幸せの象徴』
今までの人生、お祝いの空間にはいつでもケーキがあった。
ちびっ子たちにとって『パティシエ』とは、『夢の職業』
「将来なりたい職業ランキング」では毎回上位にいる。
けれども、アレルギーを持っているせいでケーキを食べることができないちびっ子は少なくない。
なぜならケーキの主原料である「小麦」「卵」「乳製品」は三大アレルギーと言われているほどだから。
発症するちびっ子たちは年々増えてきているらしい。
保育園でのお誕生日会。
みんながケーキを食べてる中、アレルギーを持っている子は寂しそうにゼリーを口に運ぶ。
家での誕生日パーティー。
お兄ちゃんが美味しそうにケーキを食べてる横で、妹は「いいなぁ…」と悲しそうに俯く。
そんなのおかしい。
そんな世界は間違ってる。
どうして『お菓子』の周りで『悲しみ』が生まれてしまう?
僕にとっては『幸せの象徴』なのに。
僕は、お菓子が好き。
だから、お菓子をみんなで囲む空間くらいは、幸せで満たされていてほしい。
アレルギーを持っている子も、そうでない子も、みんなが同じケーキを分け合って、『美味しいね』って食べながら笑顔になってほしい。
ただし、アレルギーを持っていない子は、普通のケーキの味を知っている。
だからこそ、「アレルギー対応のケーキだから、あんまり美味しくなくてもしょうがないよね」なんて感想を抱かせてはいけない。
アレルギーを持っている子たちも、成長するにつれて克服していく場合が多い。
克服して普通のケーキを食べた時に、ギャップを感じないほどの味にしたい。
みんなにはちゃんと『美味しいケーキ』を食べてほしい。
『夢の職業』に就いている僕ならば、きっと実現できるはずなんだ。
僕は、お菓子が好き。
お菓子が好きな人なら、それだけで僕は仲間だと思ってる。
もしもそんな仲間の大切な人がアレルギーも持っていたとしたら。
大好きなお菓子を分けあうことができないじゃないか。
それは寂しい。
あまりにも寂しすぎる。
大好きな物を、
大好きな人と、
共有することができたなら。
それはどれほど幸せなことだろう。
僕にはやりたいことがいくつかあるのだけれど、自分がやりたいだけのことは後回しにすることにした。
まず取り組むべきは、自分がやりたいこと、自分ならできることで、誰かが幸せになってくれること。
つまり僕の場合は、「三大アレルギーを持っている人でも食べられる美味しいケーキ」を作ること。
僕が住んでいる鹿児島には、そういうお店がまだまだ少ない。
だからこそ鹿児島でやる必要がある。
自分の手で100人を幸せにするんだ。
幸せの輪をちょっとずつ広げていくんだ。
たった100人でも幸せな人が増えれば、きっと世界はもう少しだけ平和になると信じて。